株式会社の機関設計の多様化と有限会社制度の廃止

VOL.1では、知っておきたい主な改正点ピックアップして簡単に説明しました。
VOL.2では、商法改正の中で最も重要である、株式会社の機関設計の多様化と有限会社制度の廃止について、さらに詳しく説明したいと思います。
はじめに

従来、会社のあり方については、中小企業は有限会社、大企業は株式会社、ということが予定・イメージされていました。
つまり
有限会社=少ない社員の一人が取締役として経営をし、特に監査する者もいなくとも良い
株式会社=多数の社員(株主)が存在し、経営は株主以外の経営のプロ集団たる取締役会・代表取締役が行ない、監査役のチェックを受けるというものです。

しかし、有限会社という名称のみで社会的信頼性が低くみられるという認識から、小企業でも株式会社の形態をとる傾向がみられ、株式会社であるものの取締役会や監査役が名目にすぎないという経営実態と会社形態の乖離がみられました。

また、株式会社にあっても、必ずしも大規模経営を望むものばかりではないにもかかわらず、原則として取締役会・代表取締役・監査役の設置が必要である等、機関設計が硬直であり、実態にあった会社設計が困難であるとういう実情がありました。
そこで、このような会社経営の実態と機関設計のありかたの乖離を解消すべく、株式会社は様々な機関設計のバリエーションを有する新たな株式会社となり(株式会社の機関設計の多様化)、有限会社はこの新たな株式会社の一形態として吸収される形で廃止されることとなった(有限会社制度の廃止)のです。


株式会社の機関設計の多様化について

(1)公開会社でない会社では取締役会を置かなくとも良くなりました(取締役1人でもOK)。
⇔従来は取締役3人以上からなる取締役会は必置でした。
(2)公開会社でない会社で大会社でないものは監査役も置かなくとも良くなりました。
⇔従来は、監査役は必置でした。

(3)すべての株式会社において会計参与を置くことができるようになりました。
⇔従来は会計参与という機関は存在しませんでした。

↓つまり

☆ 業務執行機関として、一人または数人の「取締役」、「取締役会」、「代表取締役」

☆ 監査監督機関として、「監査役」、「監査役会」、「会計監査人」、「会計参与」

のバリエーションがあり、これらを選択的に組み合わせ設置する(しない)ことにより小規模経営から監査の十分に行き届いた大規模経営までが可能となります。

最もシンプルな形態を望むなら、「株主総会+取締役1名だけ」という形をとることができます。
また、取締役一人のみの中小会社であっても、経営の信頼性を高めるために、監査役及び会計監査人を置くという機関設計も可能です。

*公開会社でない会社
→株式の譲渡につき会社の承認が必要とする旨の定款の定めのある会社。
  これにより、会社にとって好ましくない者の参加を防ぐことができます。
  大部分の中小会社は公開会社ではありません。

*会計参与 
     →取締役と共同して計算書類等を作成する会社役員です。
公認会計士・監査法人・税理士・税理士法人のみなることができます。
監査役・会計監査人が既に作成された計算書類等を監査するのに対し、自ら作成に関与する点で異なります。
今後、中小企業において、どの程度の利用がなされるか注目されるところです。
◆株式会社で可能な機関設計(株主総会は必置)◆

大会社 大会社以外の(中小会社)
公開会社でない会社

@ 取締役+監査役+会計監査人
A 取締役会+監査役+会計監査人
B 取締役会+監査役会+会計監査人
C 取締役会+三委員会+会計監査人
@ 取締役
A 取締役+監査役
B 取締役+監査役+会計監査人
C 取締役会+会計参与  ☆ D 取締役会+監査役
E 取締役会+監査役会
F 取締役会+監査役+会計監査人
G 取締役会+監査役会+会計監査人
H 取締役会+三委員会+会計監査人
公開会社

@ 取締役会+監査役会+会計監査人
A 取締役会+三委員会+会計監査人
@ 取締役会+監査役
A 取締役会+監査役会
B 取締役会+監査役+会計監査人
C 取締役会+監査役会+会計監査人
D 取締役会+三委員会+会計監査人

☆会計参与は、原則としてどの機関設計にも任意設置が可能なので、機関設計は全部で39通りとなります。

今回の改正により、最初は「株主総会+取締役一人のみ」という小規模の会社を設立しておいて、取締役会や監査役会などは、その後会社が大きくなるにつれて作ることが可能になりました。

有限会社制度の廃止について

(1)新会社法施行後は、有限会社は設立できなくなります。
新会社法施行後、従来の有限会社型の会社を設立したい場合は、公開会社でない会社(譲渡制限会社)で、社員(株主)の一人が取締役となる株式会社を設立すればよいことになります。(これまで、取締役3人と監査役で最低4人は登記する必要があった株式会社の設立が取締役一人でできます。)
現行の有限会社と違う点は、「役員の任期なしという特典を受けられない」ということと、「決算時の貸借対照表等の公告が必要になる」ということです。
(2)新会社法施行前の有限会社はどうなるのか?
→従来通り有限会社(特例有限会社と呼ばれます)として存続するか、株式会社に移行するか選択することになります。
  @従来通り有限会社として存続する場合
・商号は今まで通り「有限会社」と表示します。
・定款の変更や変更登記など何ら手続きを経る必要はありません。
・ただし、有限会社の制度は消滅しますので、会社の分類としては「株式会社」に分類されます(結婚後も特例によって旧姓を名乗るイメージです)。
・もっとも、特例法(会社整備法)により有限会社法に準じた経過措置が設けられますので内実は従来の有限会社とほとんど変わりません。
→例:取締役、監査役の任期は無制限
(株式会社では取締役の任期は2年、監査役の任期は4年)
決算時の公告義務がない
    A株式会社に移行する場合
・商号を「株式会社」に変更する必要があります。
・株式会社の資本金は1円でもかまわないので、資本金1千万円に満たなくても、株式会社になれます。
・有限会社の解散登記と株式会社の設立登記を同時に行います。
・名実共に株式会社になり、特例法の適用の余地はありませんので、取締役の任期は2年となり、定期的に役員の改選(登記)が必要になります。
もっとも、公開会社でない会社では、定款により最長10年とすることができます。
・従来通り、小規模経営を目指すなら公開会社でない会社に、大規模経営を目指すなら公開会社とし、多様な機関設定が可能になります。
・社印、看板、名刺、封筒等のリニューアルの必要があります。

◆有限会社は株式会社に移行したほうが得?◆

株式会社に移行するには、登記費用、リニューアル費用等、コストも手間もかかります。
小規模な会社の場合、株式会社に無理に移行する法律上のメリットは、あまりないとおもわれます。

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なのはな司法書士法務事務所
平成18年1月